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名古屋地方裁判所 昭和61年(ワ)1394号 判決

原告

鬼頭宏

右訴訟代理人弁護士

青木俊二

伊藤邦彦

右訴訟復代理人弁護士

岩田宗之

被告

株式会社ヤマウチ建材

被告

有限会社神藤ブロック工業所

被告

有限会社柴田建材店

右被告ら三名訴訟代理人弁護士

長屋誠

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一被告らは、商標目録記載の標章(本件標章)を付けた壁土及び瓦葺用土を製造し、販売し、又は領布してはならない。

二被告らは、原告に対し、各自一〇〇万円及びこれに対する昭和六一年五月一七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一原告は、建材用の壁土及び屋根瓦葺用土(壁土等)の製造及び販売を業とする株式会社鬼頭組(鬼頭組)の代表取締役であり、本件標章について、別紙標章目録記載の商標権(本件商標権)を有している(〈証拠〉)。

二原告は、被告らが、遅くとも昭和五六年四月一日から現在(口頭弁論終結時の平成二年七月四日)に至るまで、その製造、販売する壁土等に本件標章を付して使用し、これにより本件商標権を侵害すると共に、昭和五六年四月一日から五年間に、原告に対しそれぞれ一〇八万円を下らない損害を与えた旨主張している。

三本件は、原告が、以上の主張のもとに、商標権の侵害に基づいて被告らに対し、本件標章の使用の差止めとそれぞれ右損害のうち一〇〇万円の賠償を求めた事案である。

第三争点

(被告の商標法二六条一項二号に基づく抗弁の成否)

本件標章は、赤土等に藁を入れて水で練った壁土等を表わす名称として、遅くとも昭和四〇年ころから自然発生的に愛知、岐阜、三重及び静岡の各県内の壁土業者、及び屋根瓦業者間で使用され始め、昭和四五年ころまでには、右地方の右業者間で、壁土等を表わす普通名称として用いられていたという被告主張事実が認められるか否かである。

第四争点に対する判断

一認定事実

〈証拠〉によれば、以下の事実が認められる。

1  壁土等の需要者

本件標章が表示する商品は壁土等であり、その需要者は、もっぱら鳶職や屋根瓦業者である(〈証拠〉)。

2  壁土等の供給方法

壁土等は、もともと需要者である鳶職や屋根瓦業者が、自ら作業現場で必要な分だけを練って作っていたが、昭和四五年ころから、原告が代表取締役を務める鬼頭組のほか、両川建材等複数の建材業者が、機械を用いて製造し始め、需要者の注文に応じて直ちに使用できる状態で作業現場にトラックで搬入するようになった(〈証拠〉)。

3  鳶職の間での認識

本件標章は、豊橋市を中心とする東三河地方の鳶職の間では、建材業者が壁土等の製造、販売を始めた昭和四五年ころから、壁土等を表わす名称として、建材業者に壁土等を注文する際などに用いられるようになったが、それが、鬼頭組の製造する壁土を表わす商標であるとは認識されていなかった(〈証拠〉)。

4  屋根瓦業者間での認識

本件標章は、愛知県内の屋根瓦業者の間では、昭和四〇年ころから、壁土等を表わす名称として使用され始め、建材業者が壁土等の製造、販売を始めた昭和四五年ころには愛知県内はもとより、岐阜、静岡の両県内でも普通に用いられるようになり、建材業者に注文する場合にも、「ドロコン一車」という形で注文されていた。その後、本件標章は、昭和六一年五月に発行された愛知県内の屋根瓦業者の団体である屋根工事連盟の会員名簿中には、「愛知県近郊ドロコン業者名」として同県内で壁土等を扱う業者の名簿が掲載されるまでに普及したが、同業者間において、本件標章が鬼頭組が製造、販売する壁土等を表わす商標としては認識されていなかった(〈証拠〉)。

別紙図面

5  建材業者間での認識

前記のとおり、建材業者は、昭和四五年ころから機械を用いて壁土等を製造するようになったが、その際に用いる機械を注文する際には、「ドロコン製造機械」という名称で注文し、それを製造する業者の間の内部文書においても、本件標章が壁土等を表わす名称として普通に用いられていた。その後、本件標章は、昭和六三年には奈良県内の建材業者の中にも用いる者が現れるまでに普及したが、それが鬼頭組の製造、販売する壁土等を表わす商標であるとは認識されていなかった(〈証拠〉)。

6  被告らの使用方法

被告らは、本件標章を、壁土等を表わす普通名称として用いているが、その用い方は、他の建材業者と格別変わるものではない(〈証拠〉)。

二判断

以上の認定事実を総合すれば、本件標章は、昭和四五年ころには、愛知県内及び静岡県等の近郊の県内において、鳶職及び屋根瓦業者等の需要者並びに製造者である建材業者間で壁土等を表わす普通名称として用いられており、そのため、すでに鬼頭組の製造、販売する壁土等を表わす商標としての識別力を有していなかったものと推認することができ、そして、被告らは、本件標章を、壁土等を表わす名称として、「普通に用いられる方法で表示する」に過ぎないものであると認めることができる。

〈反証判断省略〉

したがって、商標法二六条一項二号により、原告の本件商標権の効力は、被告らの本件標章の使用には及ばないことになり、原告の本訴請求は理由がない。

(裁判長裁判官浦野雄幸 裁判官杉原則彦 裁判官岩倉広修)

別紙商標目録〈省略〉

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